フリーランスの一社依存は危険?良い継続案件を残しながら依存を減らす方法

フリーランスとして仕事をしていると、長く付き合えるクライアントができることがあります。

営業しなくても仕事が入る。
単価も良い。
やり取りにも慣れている。
毎月ある程度の収入が見込める。

こうした継続案件は、フリーランスにとって大きな支えです。

一方で、受注量が増えてくると、

「気づけば売上のほとんどがこの会社になっている」
「ここから仕事が来なくなったら、かなり困る」

という状態になることがあります。

では、フリーランスの一社依存は危険なのでしょうか。

結論からいうと、一社から多くの仕事をもらっているからといって、必ずしも悪い状態とはいえません。

見るべきなのは取引社数や売上比率だけではなく、その一社がなくなったときに、収入・時間・営業・今後の選択肢まで一緒に崩れてしまうかどうかです。

良い継続案件を無理に手放す必要はありません。

この記事では、今ある安定を残しながら、一社への依存だけを少しずつ減らしていく考え方を分かりやすく解説します。

    フリーランスの一社依存は、それだけで危険とは限らない

    「フリーランスなら複数の取引先を持った方がいい」と言われることは多いです。
    ただ、一社としか取引していないこと自体が、必ずしも問題というわけではありません。

    内閣官房が2020年に実施した「フリーランス実態調査」では、事業者から業務委託を受けて働くフリーランス3,234人のうち、直近1年間の取引先が1社だった人は40.4%でした。

    一社との取引に集中している人は、決して珍しくありません。

    また、今回確認した公的資料には、「売上の○%を一社が占めたら危険」というフリーランス向けの基準はありませんでした。

    そのため、単純に、

    「50%だから危険」
    「3社あれば安全」

    とは判断できません。

    たとえば、売上の大半を一社から得ていても、少ない稼働時間で仕事が終わり、営業する時間や他の仕事をする時間が十分にある人もいるでしょう。

    反対に、売上比率はそれほど高くなくても、毎日の固定稼働や頻繁な連絡によって、その会社を中心に生活や予定を組まなければならないこともあります。

    一社依存を見るなら、「何%か」だけでなく「その仕事によって何が動かせなくなっているか」を見ることが大切です。

    参考:内閣官房「フリーランス実態調査結果」

    一社依存は売上だけでは判断できない

    一社への依存には、いくつかの形があります。

    売上の依存

    もっとも分かりやすいのが収入です。

    その取引が終了しただけで、毎月の売上が大きく落ちる状態なら、収入面での依存は強いといえます。

    重要なのは割合そのものより、「来月からこのクライアントからの売上がゼロになっても、生活や事業を立て直せるか」です。

    一度、そのクライアントからの売上を除いて月の収入を計算してみると、状況を大まかに把握できます。

    時間の依存

    売上だけでなく、稼働時間も確認します。

    一社の仕事で平日のほとんどが埋まっていれば、新しい案件を探したくても時間を作るのが難しくなります。

    営業だけではありません。

    • 案件を探す
    • 応募する
    • 面談する
    • テストを受ける
    • 新しい仕事の進め方を覚える

    取引先を増やすには、それなりの時間が必要です。

    依存を減らしたいと考えた時点で、すでに依存を減らすための時間が残っていない。

    一社依存では、こういった状態も起こります。

    営業の依存

    継続案件が安定すると、新しい仕事を探さなくても毎月の予定が埋まります。

    これは大きなメリットです。

    ただ、その状態が長く続けば、

    「最近の案件相場を知らない」
    「ポートフォリオを何年も更新していない」
    「久しぶりに営業しようとしたら、どこから探せばいいか分からない」

    ということもあるでしょう。

    今すぐ新しい仕事を取る必要がなくても、必要になったときに営業を再開できる状態かは確認しておきたいところです。

    スキル・実績の依存

    一社で長く仕事をすると、その会社のルールや業務には詳しくなります。

    しかし、それが外でも評価される実績やスキルとして積み上がっているとは限りません。

    社内独自の作業だけに慣れていないか。
    公開できる実績は増えているか。
    別のクライアントでも説明できる仕事になっているか。

    こうした点も見ておくことが大切です。

    心理的な依存

    もう一つ見落としやすいのが、気持ちの面です。

    「ここを失ったら困る」と感じるほど、

    本当は断りたい仕事を受ける。
    条件変更を言い出しにくい。
    仕事量を減らしたくても減らせない。

    といったことが起こりやすくなります。

    2020年の内閣官房の調査では、取引先とのトラブルがあっても不利益を受け入れた理由として、41.2%が「拒否すると今後の取引を打ち切られたり減らされたりし、活動に大きな支障が出るため」と回答しています。

    この設問の回答者は260人で、一社依存だけを対象にした数字ではありませんが、取引継続への不安が判断に影響するケースがあることは分かります。

    条件だけでなく、自分がそのクライアントに対して「NO」と言える状態かどうかも、一つの判断材料になるでしょう。

    出典:内閣官房「フリーランス実態調査結果」

    良い継続案件ほど、一社依存になりやすいこともある

    一社依存というと、悪い条件のクライアントから抜け出せない状態を想像するかもしれません。

    しかし、実際には逆の場合もあります。

    単価が高い。
    仕事量が安定している。
    やり取りがしやすい。
    継続的に発注してもらえる。

    条件が良ければ、その案件を多く受けた方が短期的には合理的です。

    筆者にも、ある継続案件が売上のおよそ4分の3を占めていた時期があります。

    そのクライアントは単価が良く、作業範囲も明確で、こちらが対応できる仕事量を伝えれば、かなり安定して発注してくれていました。
    やりとりもかなりスムーズで、とても気持ちよく仕事ができるクライアントです。

    当時は達成したい金額的な目標もあり、「同じ時間働くなら、条件の良いこの仕事を多く受けたい」と思っていました。

    その一方で、「この案件が全部なくなったら、収入はどうなるんだろう」という危機感があったのも事実です。

    そこで、同じような条件の案件を探してはいました。
    ただ、すでに大口案件でかなりの時間が埋まっています。

    新しい案件を探すだけならまだしも、応募して、面談して、テストライティングをして、新しい仕事を覚えるところまで考えると、時間的な余裕がほとんどありません。

    当時は1日に4・5本書くこともあったので、体力的にも気力的にも限界でした。

    振り返ると、ここが一社依存の難しいところだと感じます。

    依存していると気づいてから分散しようとしても、依存している案件そのものが、新しい仕事を探す時間を奪っていればうまく対応できません。

    だからこそ、一社依存は「危なくなってから直す」より、安定している段階で新しい仕事を探せる時間を確保しておくのがおすすめです。

    継続案件の取り方や、継続するかどうかの判断のポイントを知りたい方は、以下の記事も参考にしてみてください。

    一社依存を見直した方がいいサイン

    売上比率だけでは判断しにくいので、次のような状態がないか確認してみてください。

    • その一社の売上を除くと、生活や事業の維持が難しい
    • 新しい案件を探したいのに、既存案件だけで予定が埋まっている
    • 仕事量を減らしたいのに、今後発注されなくなることが怖くて言えない
    • 条件が合わなくなっても断りにくい
    • 最近、新しいクライアントに提案や応募をほとんどしていない
    • その会社以外でも使える実績やスキルが増えていない
    • 固定時間、会議、連絡対応などで自由に使える時間が減っている

    全部当てはまったから危険という話ではありません。

    ただ、複数当てはまり、「この会社がなくなった後、次へ動くまでかなり時間がかかりそう」と感じるのであれば、少しずつ依存を減らす準備を始める価値があります。

    良い案件を残しながら一社依存を減らす方法

    一社依存を減らすために、いきなり大口案件を辞める必要はありません。むしろ、条件の良い継続案件なら、それを土台にしながら他の選択肢を作った方が動きやすいです。

    ここからは、良い案件を残しつつ、一社依存を減らす具体的な方法を見ていきましょう。

    売上と稼働時間を並べて見る

    まず、クライアントごとに、

    • 月の売上
    • おおよその稼働時間
    • 固定される時間
    • 連絡や管理にかかる負担
    • 外で使える実績になるか

    を整理します。

    すると、売上だけでは見えなかったことが分かるはずです。

    売上比率が高くても稼働が少ない案件なら、それほど自由を奪っていないことがあります。
    逆に、売上はそれほど大きくなくても、拘束時間が長ければ他の仕事を取る時間を減らしている状態です。

    この機会に自分の状況を把握しましょう。

    自分の中で「ここまで」を先に考えておく

    公的な安全基準として「一社○%まで」という数字は確認できません。

    ただ、自分で運営上の目安を決めることはできます。

    筆者の場合、今振り返ると、最初から「一社から仕事をもらえるだけ全部もらう」のではなく、「一つの取引先を売上や作業量の最大何割まで増やすのか、自分なりに設計しておけばよかった」と感じています。

    たとえば「一番大きい会社が半分程度で、残りをいくつかに分ける」といった考え方もあります。33%程度で3社と均等に分ける考え方もあるでしょう。

    ただし、これらは安全性を保証する数字ではありません。

    収入、仕事量、営業力、生活費などによって適切な配分は変わります。大切なのは、仕事が増えてから考えるのではなく、増えている途中で一度立ち止まることです。

    新規営業に使える時間を先に空ける

    一社依存を減らしたいなら、新しい案件を探す時間を確保する必要があります。

    「暇になったら営業する」というやり方では、大口案件がある限り暇にならないこともあります。

    毎週数時間でも構いません。案件検索、ポートフォリオ更新、提案、新しい人との接点づくりなどに使う時間を先に確保しておきましょう。

    「別の会社なら何でもいい」と考えない

    依存を減らすためだけに条件の悪い案件を増やすと、働き方が苦しくなる可能性が高いです。

    高単価で進めやすい案件を減らして、低単価で管理負担の大きい案件を複数抱えたら、取引先は分散しても仕事は楽になりません。

    新しい案件を見るときは、

    • 単価
    • 作業範囲
    • 必要な時間
    • 連絡頻度
    • 固定稼働の有無
    • 今後につながる実績かどうか

    など、今持っている良い案件と同じ基準で見ます。

    一社依存を減らすことと、条件を下げることは別です。

    新しい柱ができたら既存案件の量を調整する

    いきなり今の大口案件を大幅に減らし、その後に新規営業を始める方法はおすすめできません。

    まずは、良い継続案件を維持しながら少しずつ新しい仕事を探すとよいでしょう。別の柱が育ってから既存案件の量を調整した方が収入を急に落とさずに済むので、無駄な不安を抱えずに済みます。

    既存クライアントと良好な関係を築けているのなら、「来月から受けられる量を少し減らしたい」と調整するのも一つの方法です。

    継続案件で積み上げた信頼関係は、一社依存を減らしたいからといって壊すべきではありません。

    クライアントとの信頼関係は、すぐに構築できるものではありません。だからこそ、良い関係を残したまま、仕事量だけを調整できないか検討・相談してみるとよいでしょう。

    筆者の経験から考えるクライアントとの信頼関係に関しては、以下の記事で詳しく書いています。

    取引先を増やしすぎることは必ずしも正解ではない

    一社依存を避けようとして、逆に取引先を増やしすぎることにも注意が必要です。

    クライアントが増えれば、

    • 契約
    • 請求
    • 連絡
    • ミーティング
    • 納期管理
    • 異なるマニュアルやツールへの対応

    などが増えていきます。

    5社なら安全、10社ならもっと安全、というものではありません。

    自分の管理できる範囲を超えて案件を増やしてしまえば、収入が分散しても、時間や精神的な負担が大きくなってしまいます。

    大切なのは、取引社数を最大化することではなく、「一つの取引がなくなっても、次の選択ができる状態を作ること」です。

    人それぞれ、どの状態がベストかは異なります。

    人によっては2社でも十分かもしれませんし、複数の小さな仕事を持つ方が向いている人もいるでしょう。自分の理想の働き方や状況を踏まえた上で、ベストの状態を考えてみてください。

    業務委託なのに拘束が強い場合は別の問題も確認する

    一社依存について調べてみると、「業務委託なのにほぼ社員のように働いている」「時間を固定されている」というケースも多いことが分かりました。

    厚生労働省は、『労働基準法上の「労働者」に該当するかどうかは契約名称だけでは決まらず、仕事を断る自由、業務上の指揮監督、勤務時間や場所の拘束性、専属性などを含め、実態から総合的に判断する』としています。

    そのため、業務委託だからといって、発注者が働く時間をどのように決めても問題ないわけではありません。

    厚生労働省のフリーランス向け自己診断チェックリストでは、「委託事業者から仕事の就業場所や就業時間(始業・終業)を具体的に決められている」ことは、労働者性を肯定する方向に働く事情の一つとされています。

    たとえば、

    • 始業・終業時間を発注者から具体的に指定される
    • 毎日の仕事量や進め方まで具体的な指示を受ける
    • 依頼された仕事を断る自由がない
    • 自分の都合で働く時間を変更できない
    • 他社の仕事を実質的に制限されている

    といった事情が重なれば、契約書に「業務委託」と書かれていても、実態として労働基準法上の「労働者」に該当すると判断される可能性があります。

    厚生労働省も、フリーランスとして契約しているものの、実態としては労働者に該当する働き方をしているにもかかわらず、労働基準法などによる保護を受けられていないケースがあると指摘しています。2024年11月からは、こうしたフリーランス向けに全国の労働基準監督署へ相談窓口も設けられています。

    単に「打ち合わせが毎週○曜日にある」といった時間指定は、通常問題ありません。

    発注者から働く時間や場所を管理され、仕事の進め方まで指揮されるなど、実態が雇用に近くなっているのに、業務委託として扱われているケースは、労働基準法などへの違反につながる可能性があります。

    固定時間や強い指揮命令があり、「これは単なる一社依存とは違うのでは」と感じる場合には、依存の分散とは別に、自分の契約と実際の働き方を確認した方がよいでしょう。

    出典:厚生労働省「労働基準法における『労働者』とは」
    出典:厚生労働省「働き方の自己診断チェックリスト(フリーランス向け)」

    目指したいのは、一社がなくなっても働き方が崩れない状態

    良い継続案件を持つことは、フリーランスにとって大きなメリットです。

    毎月営業を繰り返さなくて済み、仕事の進め方にも慣れ、信頼関係も積み重なっていきます。

    だから、一社への依存が気になったからといって、条件の良い案件を急いで手放す必要はありません。

    まず確認したいのは、「この取引が明日なくなったら、自分はどうなるか」です。

    収入はどのくらい残るのか。
    新しい仕事を探す時間はあるか。
    営業を再開できるか。
    他社にも見せられる実績があるか。
    条件が合わなくなったときに断れるか。

    ここに大きな不安があるなら、一社依存を減らす準備を始めるタイミングです。

    大口案件をゼロにする必要はありません。

    仕事を追加でもらいすぎない。
    営業のための時間を少し残す。
    同じくらい条件の良い案件を探しておく。
    新しい柱ができたら、少しずつ仕事量を調整する。

    それだけでも状況は変わります。

    安定を捨てて分散するのではなく、今ある安定を残したまま、そこがなくなっても動ける状態を作っておく。

    一社依存から抜け出したいと考えているのなら、そのくらいのバランスから始めてみるとよいでしょう。

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