フリーランスの信頼残高は、動けない日に返ってくる

フリーランスになってから、納期だけはかなり大事にしてきました。

受注前にスケジュールを相談することはあります。
でも、一度受けた仕事について、こちらの都合で納期を延ばしてもらったことはほとんどありませんでした。

急なリスケは、仕事を失うことにつながる。

ずっと、そんな感覚があったからです。

それでもある日、初めてクライアントに納期の相談をしました。

親が亡くなるかもしれないと思ったときでした。

仕事を失うかもしれない。
迷惑をかけるかもしれない。

それでも、今は仕事より、この時間を大切にした方がいい。
そう思って事情を伝えました。

すると、クライアントは仕事のことを気にしなくていいと言ってくれました。
別のクライアントは、事情を知ったうえで、それでも仕事をお願いしたいと言ってくれました。

そのとき初めて、

普段の仕事の積み重ねは、こんな日に返ってくることがあるのかもしれない。

そう思いました。

フリーランスの信頼は、売上のように数字では見えません。
でも、確かに存在しているものだと思います。

この記事では、自分が動けなくなった日に感じた「信頼残高」について書いてみます。

    納期は絶対に守ってきた

    フリーランスの仕事では、納期をかなり大事にしてきました。

    もちろん、受注前に日程を相談することはあります。

    「この日なら対応できます」
    「このスケジュールだと少し厳しいです」
    「この内容なら、もう少し時間が必要です」

    そうやって、仕事を受ける前に調整することは普通にあります。

    でも、一度「この日までに納品します」と約束した仕事について、こちらの都合で動かしてもらうことにはかなり抵抗がありました。

    納期は、自分とクライアントだけの約束ではないこともあります。

    自分の納品後に、

    編集する人がいる。
    確認する人がいる。
    サイトへ入稿する人がいる。
    公開日が決まっている。

    自分が遅れることで、その先にいる誰かの予定までずれることがあります。

    だから、できるだけ守りたい。

    それに、フリーランスは毎日働いている姿を見てもらえるわけではありません。

    会社員なら、同じ職場にいれば、

    今日も出社している。
    ちゃんと仕事をしている。
    忙しそうだ。

    そんな姿が自然と見えることがあります。

    でも、フリーランスは違います。

    普段の連絡。
    提出した成果物。
    納期。
    修正への対応。

    そういう一つひとつが、そのまま「この人に任せても大丈夫か」という判断材料になります。

    この人は納期を守ってくれる。
    ちゃんと連絡をくれる。
    何かあったら相談してくれる。
    最後まで投げ出さない。

    そう思ってもらうことが、次の仕事にもつながる。
    長く仕事をする中で、そんな感覚が強くなっていました。

    初めて納期の相談をした日

    そんな私が納期の相談をしたのは、親が亡くなるかもしれないと思ったときでした。

    そのときは、正直仕事どころではありませんでした。

    手につかない。

    というのもあります。

    でもそれ以上に、

    もしここで仕事を優先して、もう会えなくなったら、私はたぶん後悔する。

    そう思いました。

    それでも、クライアントへ連絡するまではかなり迷いました。

    納期を延ばしてほしいと言ったら、信頼を失うかもしれない。
    次から依頼されなくなるかもしれない。
    仕事を任せづらいと思われるかもしれない。
    相手にも予定がある。
    迷惑をかけるかもしれない。

    フリーランスは、仕事がなくなったときに会社が次の業務を用意してくれるわけではありません。

    だから、ひとつの仕事を失うことに必要以上に怖さを感じることがあります。

    それでも、そのときは、「仕事を失ったとしても、今はこっちを選ぶべきだ。」と思いました。

    だから、正直に事情を伝えました。

    今どういう状況なのか。
    通常通りの対応が難しくなる可能性があること。
    進行中の仕事について、納期を相談させてほしいこと。

    すると、クライアントは責めるどころか、

    「今は仕事のことは気にしなくていい」

    という趣旨の言葉をかけてくれました。

    納期についても、かなり余裕を持たせてもらえました。
    その言葉に、本当に救われました。

    仕事のチャットで、あんなに救われたことはなかった

    フリーランスの仕事は、テキストだけで進むことも少なくありません。

    Chatwork。
    Slack。
    メール。
    Googleドキュメントのコメント。

    普段そこに流れているのは、ほとんど業務連絡です。

    納期の確認。
    修正箇所。
    資料の共有。
    請求書。
    次の案件の相談。

    基本的には淡々と進みます。

    でも、そのときのメッセージは、自分にとってただの業務連絡ではありませんでした。

    「仕事のことは気にしなくていい」

    そう言ってもらえたことが、本当にありがたかった。

    当時は精神的にもかなり余裕がなかったので、余計にそう感じたのだと思います。

    それでも、

    仕事のチャットに書かれた短い言葉に、こんなに救われることがあるんだ。

    と思いました。

    フリーランスは「ひとりで働く人」と表現されることがあります。

    たしかに、会社に所属せず、一人でパソコンに向かって仕事をしていることはあります。

    でも、実際の仕事は一人だけでは成立しません。

    クライアントがいる
    編集者がいる。
    担当者がいる。
    一緒に進める人がいる。

    ひとり仕事でも、人との関係の中で仕事をしている。

    そのことを、かなり強く感じた出来事でした。

    事情を伝えても、それでも依頼したいと言ってくれた

    同じ頃、別のクライアントから新しい仕事の相談がありました。

    正直、受けるのは難しいかもしれないと思いました。

    いつ通常通りに動けるかわからない。
    返信も遅くなる可能性がある。
    もし急ぎの案件なら、迷惑をかけるかもしれない。

    だから、事情を伝えたうえで断ろうとしました。

    すると相手は、

    事情はできる限り配慮する。
    納期にも余裕を持たせる。
    それでもお願いしたい。

    という趣旨の返事をくれました。

    これも、かなりありがたかったです。

    もちろん、すべての案件でこうできるわけではありません。

    公開日が決まっている仕事もあります。
    イベントに合わせた記事もあります。
    関係者が多く、ひとりだけ予定を動かせない仕事もあります。
    相手が調整したくても、できないこともあります。

    だから「事情があれば納期は動かしてもらえる」という話ではありません。

    それでも、

    事情を伝えたうえで、

    「それでもお願いしたい」

    と言ってもらえた。

    そのとき、

    これまで積み重ねてきた仕事を見てもらえていたのかもしれない。

    と思いました。

    問題が起きたときほど、早く伝える

    この経験で改めて大事だと思ったのが、早めに伝えることです。

    納期に間に合わないかもしれない。
    いつも通り返信できないかもしれない。
    仕事が予定通り進まないかもしれない。

    そんなときほど、連絡はしづらくなります。

    もう少し頑張れば何とかなるかもしれない。
    わざわざ心配をかけたくない。
    評価が下がるかもしれない。
    まだ確定していないのに連絡するのもどうなのか。

    そう考えて、ギリギリまで自分だけで抱えたくなることもあります。

    でも、クライアント側からすると、一番困るのは状況が見えないことです。

    予定通りなのか。
    遅れそうなのか。
    連絡は取れるのか。
    どのくらい待てばいいのか。
    他の人に依頼した方がいいのか。

    それがわからなければ、相手も判断できません。

    親が亡くなったときも、バタバタする中で進行中の仕事について連絡しました。

    通常より返信が遅れる可能性があること。
    しばらく連絡を取りづらい時間があること。
    案件については、状況を見ながら対応すること。

    正直、そのときに仕事の連絡をする余裕なんてほとんどありませんでした。

    でも、何も言わずに突然連絡が取れなくなる方が、相手は困ります。

    フリーランスは、自分の状況が相手から見えにくい働き方です。

    だから、

    完璧に予定通り仕事をすることだけが信頼ではなく、

    予定通りにできないとわかったときに、早めに共有することも信頼の一部

    なのだと思います。

    信頼残高は、特別なことではなく普段の仕事で積み上がる

    「信頼残高」と書くと、何か特別なことをしなければいけないようにも聞こえます。

    でも、実際はかなり地味です。

    納期を守る。
    返信する。
    わからないことは確認する。
    難しいときは早めに相談する。
    修正に対応する。
    雑な状態で納品しない。
    できないことを、できると言わない。
    約束した仕事を最後までやる。

    どれも、ものすごく特別なことではありません。

    ただ、その「普通のこと」を長く積み重ねるのは意外と大事です。

    クライアントは、自分が毎日何時間働いているかを知りません。

    どれだけ大変だったかも、基本的には関係ありません。

    見えるのは、

    連絡。
    納品物。
    対応。
    結果。

    その積み重ねから、

    この人なら任せられる。
    この人なら、何かあってもちゃんと連絡してくれる。

    という感覚が少しずつできていくのだと思います。

    信頼残高というのは、何か大きな成果を出した日に一気に増えるものではなく、普段の小さな仕事の積み重ねなのです。

    信頼があるから、何をしてもいいわけではない

    ただし、

    普段ちゃんとしているから、多少遅れても大丈夫。
    長く付き合っているから、少しくらい雑でも許される。
    今回相談できたから、次も何とかしてもらえる。

    そう考えるのは違うと思っています。

    信頼関係があることと、相手の好意に甘えることは別です。

    今回、事情を伝えたときに柔軟に対応してもらえたのは、本当にありがたいことでした。

    だからといって、普段から「これくらいならいいか」となってしまえば、少しずつ関係は変わってしまうと思います。

    普段できることは、できる限りきちんとやる。
    そして、どうしても無理なときには早めに相談する。
    その両方があるから、仕事を続けられる。

    私はそんなふうに考えています。

    人間なので、毎回完璧にはできません。

    体調を崩すこともあります。
    家庭の事情もあります。
    予想外のトラブルも起きます。

    重要なのは、

    何も起こさない人になることではなく、何か起きたときにどう対応するか。

    そして同じことを繰り返さないように、必要なら仕事の受け方自体を見直すことだと思います。

    信頼は、一方的に差し出すものでもない

    信頼残高というと、

    「どうすればクライアントから信頼されるか」

    という話になりがちです。

    もちろん、それも大切です。

    でも、長くフリーランスを続けるなら、

    自分も相手を信頼できるか

    という視点も同じくらい大事だと思っています。

    どれだけこちらが誠実に対応しても、相手が同じように向き合ってくれるとは限りません。

    突然条件が変わる。
    無理なスケジュールを押しつけられる。
    追加作業が当たり前のように増える。
    連絡が一方的。
    支払いが遅れる。
    こちらの事情や時間はまったく考慮されない。

    そういう相手と仕事を続けていると、自分だけが消耗します。

    「フリーランスなんだから、仕事をもらえるだけありがたい」

    と思いすぎると、どこまでもこちらが合わせることになってしまいます。

    でも、仕事は本来、一方だけが信頼を差し出し続けるものではありません。

    こちらは約束を守る。
    相手も約束を守る。

    こちらは早めに連絡する。
    相手も必要な情報を共有する。

    こちらが相手の事情を考える。
    相手もこちらをひとりの人間として扱う。

    そういう関係の方が、長く続きます。

    だから、信頼残高を積む相手は選ぶべきだと思っています。

    誰に対しても無理をして、すべてを差し出す必要はありません。

    「この人とは長く仕事をしたい」と思える相手に、ちゃんと誠実に向き合う。
    その関係を大切にすることも、フリーランスの仕事の一部だと思います。

    動けない日は、誰にでも来る

    フリーランスをしていると、

    「自分が止まったら終わり」

    と思うことがあります。

    会社員のように、同じ部署の誰かが仕事を引き継いでくれるとは限りません。

    体調を崩せば、仕事が止まる。
    家族に何かあれば、予定は崩れる。
    メンタルが落ちれば、いつものように頭が動かない。

    突然の出来事があれば、昨日までのスケジュールは簡単に意味を失います。

    どれだけ仕事をきちんと管理していても、

    動けない日はあります。

    私は長い間、

    「そうならないようにすること」

    ばかり考えていた気がします。

    余裕を持って仕事を受ける。
    納期を守る。
    体調管理をする。
    予定を調整する。

    もちろん、それは大切です。

    でも、人生には自分ではどうにもできないことがあります。

    そんなとき、

    「少し相談させてください」

    と言える相手がいること。

    事情を伝えたとき、

    「わかりました」

    と言ってもらえる関係があること。

    それは、フリーランスにとってかなり大きな安心だと思います。

    信頼残高は、動けない日に返ってくる

    フリーランスの信頼は、目に見えません。

    売上のように数字では表示されません。
    銀行口座のように、今いくらあるのか確認することもできません。
    契約書に書かれているものでもありません。

    でも、私は確かにあると思っています。

    普段の納品。
    普段の返信。
    普段の相談。
    普段の仕事ぶり。

    そういうものが少しずつ積み重なっていく。

    そして、自分がどうしても動けなくなった日に、

    「今は仕事のことを気にしなくていい」

    と言ってもらえる。

    事情を知ったうえで、

    「それでもお願いしたい」

    と言ってもらえる。

    納期について相談できる。

    もちろん、それを期待して普段の仕事をするわけではありません。
    困ったときに助けてもらうために、信頼を貯めるわけでもありません。

    ただ、長く、気持ちよく仕事を続けようとしてきた結果として、自分が弱っている日に、その関係に助けられることがある。

    それを私は「信頼残高」と呼びたいと思っています。

    契約も大事です。
    納期も大事です。
    報酬も大事です。

    でも、それだけでは測れないものも、仕事の中にはあります。

    ひとりで働いていても、ひとりだけで仕事をしているわけではありません。

    これからも派手なことではなく、

    返信する。
    約束を守る。
    難しいときは伝える。
    相手の仕事も尊重する。

    そんな小さなことを積み重ねていきたいと思っています。

    動けない日に助けてもらうためではなく、長く仕事を続けられる関係を作るために。

    その積み重ねが、フリーランスの信頼残高になるのだと思います。

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